研究概要
食料生産 < 作物生産促進 >
有機水耕栽培用硝化微生物剤の開発 -土壌を創る-
生物の相互作用は生命の本質の一面ですが、これまでの応用微生物学では、ほとんど個別の生命や、現象を対象としていました。 しかし、多くの微生物が難培養性であることがわかり、従来の取り組みとは異なる視点も必要となってきています。
我々は生き物と生き物の相互作用に焦点をあて、「機能」を切り口とした新たな応用研究を展開しています。 ここでは、土壌機能に着目し、微生物と植物の相互作用の観点から資源循環を実現する作物生産法の開発に取り組んでいます。
従来の化学肥料を用いる水耕栽培
水耕栽培は、計画的作物生産が可能であり、人口増加が予想される未来社会における重要な食料生産技術です。
都市部でも作物生産が可能であり、新たな農産技術として期待を集めています。
しかしながら、環境への高い負荷や、ランニングコストの問題など解決すべき課題も多くあります。
有機養液栽培(有機質肥料活用型養液栽培)とは
近年、有機物を直接栽培系に利用できる有機養液栽培法(有機質肥料活用型養液栽培)が日本で初めて開発されました(農研機構・篠原 信)。
本栽培法は、水に微生物源として土壌を少量入れ、毎日適量の有機廃棄物を添加し、約1ヶ月通気を行う硝化工程と、植物を定植後、養液内で病害に強い安定した生態系を構築しながら栽培を行う栽培工程に分けられます。
本栽培法は有機物を分解する土壌機能を水中に再現した新たな水耕栽培技術です。
有機質肥料を用いる有機養液栽培(有機質肥料活用型養液栽培)
有機養液栽培は、従来の水耕栽培に加え様々メリットがありますが、生産現場への導入には、硝化工程の短縮化、硝化工程や栽培の安定化など実用面と科学的裏付けの面から課題がありました。
我々の研究室では、土壌微生物機能に着目し、有機養液栽培法に有用な汎用的な微生物剤の開発に取り組んでいます。
有機養液栽培の目標
これまでに、硝化工程の短縮化と安定化を実現できる微生物源(土壌)のスクリーニングを行い、さらに選抜した土壌から有機養液栽培に向いた微生物群の馴養培養*を行うことで、種々の有機物を安定して硝化できるユニバーサルな微生物群を調整し、各県の農業試験上で栽培試験を行っています。
*馴養培養 一定の負荷のもとで、その環境に適した微生物を選抜する方法
環境動態と菌相の推移
有機質肥料は、土壌中での有機物の分解過程と同じ挙動を示します。
まず、従属栄養細菌により有機物が分解利用されアンモニアが生成します(アンモニア化成)、続いて独立栄養細菌であるアンモニア酸化菌群と亜硝酸酸化菌群により硝酸にまで酸化されます(硝酸化成)。
調整した微生物剤を用いた作物栽培
各県の農業試験上と共同で微生物剤を使用し、栽培試験を行いました。
葉菜、果菜にかかわらず、良好な生育が確認できました。
今後の目標
土壌の化学的性質、生物的性質の解析を通じて、作物栽培に適した「土壌デザイン」を目標にしています。
腸内と根圏の共通点
腸内環境と植物根圏の環境は見方をかえれば非常に多くの共通点があることがわかります。
生物の相互作用下で発現する機能を切り口に新たな研究の展開が期待できます。
今後の目標
地球上のあらゆる生物は微生物と関わりをもっています。人、動物、植物と微生物が互いに「関係性」を紡ぐことで生態系の綾をなし、様々な生命活動を実現しています。
「関係性」は生命を特徴づける一つの要素ですが、従来の研究手法のほとんどは単一の微生物、反応系、分子を対象としたものでした。
自然状態と比べると、むしろ不自然な環境だったといえます。従来の研究手法に加えて、「関係性」の視点から、生態系や環境において多様な微生物の果たす本来の役割、相互作用下で初めて発現する現象、複合代謝系による物質循環、複合酵素反応系を活用した合成、などに新たな研究のトピックを見いだしたいと考えています。
→研究概要の目次へ戻る